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静岡地方裁判所 昭和41年(行ウ)34号 判決 1968年2月16日

原告 全国自動車運輸労働組合御殿場自動車支部

被告 静岡県地方労働委員会

参加人 御殿場自動車株式会社

主文

申立人原告被申立人参加人会社間の静岡地方労働委員会昭和四〇年(不)第三号不当労働行為救済申立事件につき、被告が昭和四一年一〇月三一日付でなした申立棄却の命令中、山崎要一の懲戒解雇に関する部分を取消す。

原告のその余の請求を棄却する。

訴訟費用は三分しその一を原告の負担とし、その二を被告、参加人の負担とする。

事実

第一、当事者の求める裁判

一、原告

「申立人原告、被申立人御殿場自動車株式会社間の静岡地方労働委員会昭和四〇年(不)第三号不当労働行為救済申立事件につき被告が昭和四一年一〇月三一日付でなした命令を取消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決。

二、被告、参加人

「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決。

第二、当事者の主張

一、原告(請求原因)

(一)  原告は参加人御殿場自動車株式会社(以下、会社と略す)の従業員で組織する労働組合であるが、右会社は昭和四〇年六月一一日原告組合の執行委員長山崎要一に対し、懲戒解雇の意思表示をした。

(二)  被告は不当労働行為の申立があつた事件に関する処分を行う行政庁であるが、昭和四〇年六月二一日原告から右懲戒処分につき不当労働行為救済の申立をなした静岡県地方労働委員会昭和四〇年(不)第三号事件に対して、昭和四一年一〇月三一日付で原告の「申立を棄却する」旨の命令を発し、右命令を同日原告に送達した。

(三)  被告の右命令の詳細は本判決末尾添付の命令書記載のとおりであるが、それは以下に述べるとおり事実の認定、法律判断を誤つた違法なもので、取消されるべきものである。

(1) 会社が山崎要一に対してなした懲戒理由は、同人が昭和四〇年四月二〇日頃会社幹部の非行をねつ造し、これを文書にして外部にあて郵送し、同年五月一一日頃会社従業員多数に対し前記同様の事実無根のことにつき事実の如く悪宣伝を行なつた。これは社内の秩序をみだし、会社の信用を失墜せしめるものであつて、就業規則第九一条第一五号を適用するというのである。

(2) これに対し原告は、次のような理由からこれを不当労働行為であると主張しその救済を求めた。

山崎要一は原告組合の執行委員長として、従来から活発に組合運動をなしてきたが、殊に昭和四〇年のいわゆる春斗においては、ハイヤー、タクシー料金の値上げに伴う賃金改訂及び賃上げ等の諸要求を掲げて会社側と交渉に当つたところ、その交渉方式をめぐり労使の意見が対立して右団体交渉は一時こう着状態に陥つた。

その頃、会社真野助三郎(常務取締役)、小山敬吾(経理部長)両名は、部下数名を同伴して、しばしば会社の営業乗用車(タクシー)を利用して沼津市内並びに熱海市内の料亭やバーに通い、しかも、その乗車料金は社用であると称して会社負担の伝票処理をして決済するなどの行為が目立つたため、会社のタクシー従業員(組合員)は、会社が一方において経営の赤字を強調して従業員に水揚げの増加を督励し、賃上げ交渉も難行しているのとうらはらに、他方では、会社幹部のかような浪費を擅ままにしていることを目撃して右両名に対する不信と不満の声が急速に高まり、遂に組合執行部にこの対策を講ずるように強く訴えた。そこで、組合執行委員会において数次の討議を重ねた結果実情を調査のうえ、必要な措置をとること、その具体的方法、時期等については組合三役に一任する旨決定した。

そして、右調査の結果、真野、小山両名がかなりの回数、社用と称して会社のタクシーを利用して料亭等に通つている事実が判明したので、かかる乱費の節減により組合の賃上げ交渉を好転させ、且つ職場の明朗化を図ろうと考えて会社側に一層の調査、善処方を申し入れようとしたものの、右両名の会社における地位や勢力から推して単に会社に対する要請だけではその効果が期待できないので、会社に対し絶大なる影響力を有する親会社の富士急行にも右調査依頼をなすため、組合執行委員会においてその旨決定し、同趣旨に従つて執行委員長名義をもつて別紙の如き調査依頼書を各発送した。

しかるに、会社は、ことさら、これを山崎要一個人の行為としてとらえ、右山崎を懲戒解雇処分に付したが、これはまさに同人の正当な組合活動を理由とする不当労働行為である。

なお会社の主張している、昭和四〇年五月一一日頃山崎要一が従業員多数に対し事実無根の悪宣伝をしたという事実は、全く存在しないもので、山崎を解雇するためにねつ造したものである。更に、会社は解雇通告後山崎要一を執行委員長とする組合の団交申入を拒否し、団交申入書を返戻するなどの不当労働行為をなしたのである。

(四)  被告の事実認定の誤り

(1) 被告の事実認定は、まず第一に主要な争点に関する重大な事実についての判断が脱落している。

(イ) 本件調査依頼書を発送したのは、原告である組合かそれとも山崎個人かという点は本件の重大な争点であるが命令書第一4及び6の事実記載を対照して検討しても、これに関する被告の認定はきわめてあいまいである。

(ロ) 昭和四〇年五月一一日の集会において、会社の主張するような文書回覧が行なわれたか否かの点に関する被告の認定は、原告の主張するとおりに「貨物ホーム附近」でこの集会が開かれたものとしながら、かんじんの文書の回覧についてはその事実の有無について何らの認定も行なわない。これは重大な事実認定の脱漏である。

(ハ) また、真野常務が出向して以来組合活動に対する制限、沼津芙容タクシーの勤務条件の強化が行なわれたことなどの事実は、本件にとつて重大な事実であるのに拘わらず、これを一切認定していない。

(ニ) また、命令書第一5には、いわゆる「熱海事件」の事実が認定されているが、その末行に「熱海の経費は会社が負担していない」としている。しかし、これは、後に組合がこれを問題としたため共済組合もしくは労働金庫からの個人の借入によつて、後日会社の内田主任が金八万円を支払つているという事実を故意に無視した一方的な事実に反する認定であるといわねばならない。

(五)  判断及び法律上の根拠の誤り

(1) 被告の判断は、命令書第二、3末段に要約されている。

「これを要するに、組合は前年一〇月に真野らが出向して以来組合活動が多少窮屈になつたことについての不満と小山への反感にもとづき、かつ折柄真野、小山をこころよからず思つていた井上と意を通じて両名の追放をねらつての行為と判断するのほかなく、したがつてこれは正当な組合活動の範囲を逸脱したものといわなければならない」として、救済の申立を棄却したのである。

(2) 被告が右の判断に到達した前提は、きわめて不可解な論理によつて組み立てられているし、このような被告の判断の誤りは、証拠の恣意的な取捨選択によつて生じたものである。

すなわち、山崎証言の評価(被告は、山崎証言中の「いわゆる社用は九月一七日の熱海事件以来ばつたりなくなつた」との一句のみを極めて大きく取り上げていて、同証言全体を正当に評価していない)、藤田の不正はないとの判断、小山経理部長の不正につき熱海事件前後の長期にわたるタクシーの私用利用に対する判断の欠除、原告の提出した井上メモの悪意に充ちた評価、さらに春斗要求書に不正事実の記載ないことから、これを団交に持ちこんで解決すべきものとする被告の独断(これは、出向経営陣による会社の経営実権の把握、原告組合が小規模な企業内組合であることなどの実状を無視した形式論理である)、そして、山崎の懲戒理由の他の一に会社が挙げている悪宣伝文書配布の事実に対する被告の判断の脱漏など被告の本件事実認定は、証拠の評価を誤り、事実を誤認し、法律上の判断を誤つた違法なものである。

二、被告・参加人の答弁

(一)  原告主張請求原因事実中(一)(二)の事実は認める。

(二)  同(三)の事実のうち被告の発した命令書の内容および(三)(1)(2)はいずれも認めるが、その余は争う。

(三)  同(四)の事実は争う。すなわち、

同項(1)(イ)、被告は、此の点に関する詳論はしていないが被告としては組合の行為と認定している。

同項(1)(ロ)、此の点については被告はふれる必要はないと判断したからである。

同項(1)(ハ)、命令は此の点にふれているが、唯原告からの此の点に関する疏明が充分になされなかつたので認定していないのである。

同項(1)(ニ)、個人が支払ずみであつたから会社が支払つたと認定することは出来なかつたのである。

一方的な認定ではない。

なお、被告は十数回の審問を重ね、事案の解明に努力を重ねて来た。

しかし、被告の事実の真相の追及には限界があるのであつてそれ以上の追及には権限もないし、能力もないのである。

(四)  同(五)の事実中(1)の事実は認めるが、その余は争う。すなわち、

原告は山崎の発送した文書を単なる調査依頼書だと主張したが被告はこれに従うことは出来なかつた。

即ち不正を働いているという個人の氏名を挙げ、且金額から二日酔をして遅刻欠勤をしているということまでも指摘して之を親会社の責任者に発送するということは調査依頼としては甚だしく妥当性を欠くものであり、従つてそれは個人攻撃の手段だと認定したのである。

いわゆる井上メモの主要部分が調査依頼書にとり入れられているという事実は正当なる組合活動の範囲を逸脱したものであると認定した。

また、被告は山崎証言の中一句のみを切りはなして判断したのではなく、全証人の証言全般に亘つて充分検討して結論を出したものである。

そして、山崎の懲戒理由の他の一である悪宣伝文書配付については、会社側の証言が伝聞証言が多かつたので、判断をしなかつたものである。

三、参加人の主張

参加人は、被告委員会が山崎要一の解雇につきなした認定(命令書第1、6を除く)とその判断を正当として主張するほか、原告の主張に反論して次のとおり陳述する。

(1)  本件行為は、その性質上、そもそも労働組合法上組合活動の範畴に属さないものであり、仮に何らかの意味で組合活動とみられるとしても、これは到底正当な組合活動として保護を受けるに値しないものである。

すなわち、「調査依頼書」なる文書発送の行為は、組合活動に名を藉り、調査依頼の名目のもとに、専ら出向者の出向元会社における、信用失墜・経営労務管理能力に関する信頼感を失わしめ、もつて、出向者排撃の目的をとげようとしてなされたものである。

(2)  昭和三九年九月一七日のいわゆる熱海事件に端を発したとする組合の調査は、問題となる事実を何ら発見することなく、昭和三九年一二月段階で終了しているものであつて(山崎審問調書)、本件文書の発送は、昭和四〇年四月上旬春斗当時、たまたま入手した井上メモによるものであり、これに基づく別個の行為である。

文書発送の昭和四〇年四月二〇日頃は、春斗要求の交渉方式につき、中央交渉団による集合交渉を要求する組合と従来の交渉方式である企業別交渉を主張する会社との間に主張の対立があつた時期である。

この交渉方式に関する会社・組合間の主張の対立は、昭和三九年末一時金要求に関する交渉において、初めて組合側が従来の交渉方式を変えて集合交渉を要求して来たところから起つたものであつたが、静岡県下においては富士急行(株)系列下の二社(参加人会社及び他一社)のみが従来の交渉方式を主張して譲らなかつたとの事情があつた本件文書発送が行なわれたのは、このような時期においてであつた。すなわち、この文書発送の行為が組合活動との関係で意味があるとすれば、それは決してその賃上要求の内容との関係で「浪費をやめることで行き詰つている賃上げの団体交渉を有利に展開できる」との点にあつたのではなく、当面の団交の当事者として組合要求の中央交渉団による集合対角線交渉を拒否していた富士急行出向経営陣の結束を、不正なる偽計をもつて打ち破ることに、その専らの目的があつたものとみなくてはならない。被告委員会命令の認定判断は、昭和四〇年春斗における争議の実相を正しく把握している。

(3)  本件文書の発送は、昭和四〇年春斗時期において、交渉方式について前述したとおり組合と団交当事者であつた富士急行出向経営陣との間に対立が激化していた時期に、たまたま、旧経営陣の一員であつた井上営業部長から入手したいわゆる井上メモを直接の契機として、また、これを唯一の根拠としてなされたものである。井上メモは、旧経営陣の一員であつた井上部長の出向者に対する邪推と個人的不満に充ちている。

(4)  本件文書の内容・表現についてみると、これは六月三日山崎自身が藤田専務、杉山専務に告白した「真野、小山の追放」を目的とした文書以外の何ものでもないことが判る。

(5)  本件文書により、真野、小山は出向元会社のみならず、富士急行(株)系列下の関係会社多数にまで疑惑の目をもつてみられ、故なき調査にさらされて、社内信用、個人の名誉を著しく傷つけられた。これは会社そのものの信用を失墜せしめ、社内の秩序を乱す極めて悪質・重大な行為であつて会社として到底これを放置しえないものである。

第三、証拠<省略>

理由

第一、当事者間に争いのない事実

原告が参加人御殿場自動車株式会社の従業員で組織する労働組合であり、右会社が昭和四〇年六月一一日原告組合の執行委員長山崎要一に対し、懲戒解雇の意思表示をしたこと、被告が不当労働行為の申立があつた事件に関する処分を行う行政庁であつて、同年六月二一日原告組合から右懲戒処分につき不当労働行為救済の申立があつた静岡県地方労働委員会昭和四〇年(不)第三号事件に対して、昭和四一年一〇月三一日付で原告の「申立を棄却する」旨の命令を発し、右命令を同日原告に送達したこと、そしてその命令の内容が本判決末尾添付の命令書記載のとおりであつて、右救済申立事件において会社の主張する右懲戒解雇をした理由およびこれに対する原告の主張が既述の請求原因事実(三)(1)(2)のとおりであること、右命令にいたる判断の要旨は前記命令書末段部分に集約されていて、前記山崎要一の行為が「正当な組合活動の範囲を逸脱したものといわねばならない」と認定していることについては当事者間に争いがない。

第二、被告の事実認定とその判断の検討

成立に争いのない甲第一、第二号証、乙第一号証の一、二、第二号証の一ないし一二、証人真野助三郎の証言(一部)を総合すると、次の事実が認められる。

参加人会社は資本金三、二四〇万円で、従業員約一九〇名を擁し、営業内容はトラツク四八台による貨物輸送を主体とし、併せてバス五台、タクシー二五台による旅客運送を営み、その営業所は沼津市、御殿場市並びに駿東郡小山町の三ケ所にありタクシー部門は「芙蓉タクシー」の通称で営業し、当時その沼津営業所にはタクシー一〇台、従業員一六名が配置されていた。そして、同会社の役員(一二名)は、二、三名の例外を除き、代表取締役社長以下大部分が同会社の総株式数の約八〇パーセントを掌握している富士急行より派遣せられた出向者で占められていたが、昭和三九年一〇月一日著しい営業不振を続けていた会社の業績向上の使命を帯びて富士急行より新たに藤田昌平が専務取締役に、また真野助三郎が常務取締役に出向いた。

ところが、芙蓉タクシー沼津営業所では、同年六月頃から会社幹部が料亭やバーの往復に「社用」と称して会社タクシーを利用する傾向が目立ち、特に富士急行から出向いた経理部長小山敬吾はその回数が頗る多く、その上、時として深夜富士宮の自宅まで送らせることもあつた。そして、この傾向は、真野常務が出向いて来た後も改まらず、むしろ同人も小山らと行を共にすることが多かつた。

これにつき、同営業所従業員らは、会社職員が同会社の用務のためそのタクシーを利用する場合には、作業日報に赤字で「社用」と記載するよう定められ、その料金相当額は当日の水揚げ高に加算される仕組ではあつたが、いわゆる「社用」の場合、待時間が長く、帰途が深夜に及びがちで心身の疲労が烈しい割に水揚げが少ないので、同所従業員から前記社用の増加に対する苦情が組合執行部へしきりに持込まれた。

しかも、従業員の右不満には同会社従業員の賃金や賞与基準が沼津市内における同業者のそれに比してかなり低位にあつて、会社幹部も経営上の赤字挽回のため従業員に一層の奮起精励を督促していた折から、他方で会社幹部が社用に名を藉り、浪費していることに対する不信、不満がその底流をなしていた。

かように、従業員間に不満が募りつつあつたとき、小山他四名の会社職員が、昭和三九年九月一七日午後一一時頃から沼津営業所運転手相川竜彦に命じて会社タクシーを運転させ、同市内のお茶漬屋「天香」から熱海市宝金荘に向い、同所で一泊した後翌日十国峠を超えて沼津営業所に帰参し、その料金のうち帰途の分は小山の指示により料金メーターを倒さず、ただ沼津より熱海までの料金一、九二〇円のみを作業日報に記帳報告したため、これを不審に思つた内田主任より詰問され、右相川は遂に前記事情をあからさまにしたことから俄に表面化し、一般組合員の不満が遂に爆発して、この際会社に対しこれが改善方を強硬に申入すべきであるとの声がつよく、これを受けた執行委員佐野十三夫は同年一一月一五日の組合常任委員会の席上右問題を提案し、討議の結果、同委員会において斉藤委員を中心に慎重調査のうえこれが具体策についてはその決定を組合三役に一任することとなつた。

同委員会では、社用乗車につき、作業日報に基づく調査の結果かなりの回数と多額に及ぶ社用乗車を発見したが、交際費や飲食費の濫費については的確な資料に乏しく、ただ同年四月上旬井上業務部長より勝又書記長宛に、真野、小山らの飲食費は月額金二〇万円ないし三〇万円を超えること、同人らは自宅で使用する味噌、醤油、酒に至るまで会社の金で賄つている等の内容を有する書簡が寄せられた他、組合員らが風聞する程度に過ぎなかつたが、ともかく、これらの調査資料を同月一八日の常任委員会で検討のすえ、次のような結論を得た。

すなわち、組合としては、当時、前記諸要求を揚げてたたかつた春斗の団体交渉も会社側との対立がきびしく、交渉はこう着状態にあるのに、他方では会社幹部にかような浪費の事実があるから、これを指摘してその削減を迫ることは、右賃上げ交渉を組合側へ有利に導くことにもなり、また会社幹部のかかる濫費は一般従業員の勤労意欲を低下せしめるから、これを払拭して職場を明朗化する必要があること、しかしながらこれが調査に関する組合の能力はほぼ右が限度であること、他方、会社においては代表取締役社長の利根沢は殆んど出社せず、組合との団体交渉にも未だかつて出席したこともない有様で、会社の経営は杉山、藤田両専務、真野常務の各取締役に一任され、ただ杉山は独り富士急行よりの出向でないため発言力も弱く、真野、小山の前記事実につき会社にこの改善を要望しても、その成果は期待できないなど諸般の事情を総合勘案のうえ、会社と前記の如き密接な関係にある富士急行の関係取締役に右要望を通ずるのが、より適切、効果的であると決断した。

そこで、執行委員会は同年四月二〇日本件調査依頼書なる文書を執行委員長山崎要一名義をもつて作成し、これを富士急行代表取締役堀内光雄他六名の取締役宛郵送した。

もつとも、前記乙第二号証の八によれば、富士急行の関連事業課長兼本件会社監査役原田潔は富士急行社長の命により本件文書の指摘する如く、真野、小山の両名に関し、経理上の不正行為の有無につき、同月二六日及び同年六月四日の二回に亘り会社の伝票、帳簿、作業日報等について調査し、また右両名の説明を求めるなどした結果、右はいずれも取引先の招待に附随する必要経費と認められ、同人らが会社経理上不正を働いた事実はない旨の結論を得たことが窺われるけれども、前記各証拠を総合すると、右原田は単に形式的にととのえられた書類と本人らの弁解によつて一応の調査を了したのみで、費消した経費の個々につき突込んだ調査を遂げたものでもなく、且つ、同人の前記結論も必しも真相を得たものとも言い難いから、同乙号証によつても右認定の支障とはならないし、他に同認定を覆すに足る証拠はない。

以上の認定事実に照らして、山崎要一が昭和四〇年四月二〇日頃会社幹部の非行をねつ造した文書(調査依頼書)を富士急行株式会社の幹部にあて郵送したという点につき検討するに、およそ従業員が会社幹部の非行を指摘して問題にしようとする場合には、その手段、態様、目的、非行事実の信ぴよう性の有無如何などによつて、場合によつては、職務規律に違反し、労使関係や会社の業務、信用に害を与えることのあり得ることは当然であるが、本件の場合、前認定の事実によつて考えるのに、(一)本件調査依頼書は、参加人会社従業員(全自運御殿場自動車支部組合員)一般からもり上つた声にもとづき、組合として討議の結果、組合執行委員長たる山崎要一名義で作成されたものであつて、山崎要一がその個人的な感情や意見から動き、執行委員長の立場を利用してなしたものではないこと、(二)その内容も、常務取締役真野助三郎、経理部長小山敬吾にとつて不名誉な事実が記載してあるけれども、なお疑いをもつに止め、資料整備未了を認めて親会社の調査を依頼した趣旨であること、(三)右文書を作成した時期は、昭和四〇年三月九日の統一要求にはじまるいわゆる春斗の労働争議の最中、ことに同年四月二〇日の二時間時限ストを予告した同月一七日の翌日ごろであり、これを発送したのは同月二〇日ごろであることからみても、組合の賃上げ要求を有利に導く材料ないし手段であると見られること、(四)その宛先はいわゆる親会社(出向元会社)の幹部であつて、純然たる「外部」の者にむやみに会社内部の不明朗な事実を暴露したようなことではないこと、(五)参加人会社におけるいわゆる社用交際費(自社ハイヤー使用を含む)はかねてから相当乱脈で、昭和三九年一〇月真野らが参加人会社に出向した後比較的引きしまつたことはうかがわれるけれども、組合側の疑惑を解くには至つていなかつたこと(必要な社用消費といつてもその限界は幹部の一存できまるようになつており厳格なものではなかつたから、そのやり方によつては乱用の疑をもたれやすく事実小山らについては前認定の熱海の一件があつたりして、従業員殊に実際に送迎を担当する運転手が、自分らの低賃金引上げを要求するについて、幹部の浪費に疑いの目を向けるのも無理からぬ状況であつた)。(六)前記調査依頼書記載の事実そのものには相当誇張があると考えられるが、その資料としては井上業務部長の文書(いわゆる井上メモ)があり、井上の動機はともかくとして、山崎要一の上司である同人から一応の裏付をとつているほか、前記のように運転手の直接見聞した事実が問題提起の発端となつていることがそれぞれ認められ、以上の観点からみて、山崎要一のなした本件文書発送行為は、会社の業務運営や信用に悪影響を及ぼし、職務規律に反する悪質な行為とは認められない。

なお右の(三)については、被告認定のとおり本件調査依頼書の件は参加人会社に対する組合側の団体交渉の項目にはなつていないしその席上でも何ら取上げられた形跡は認められないけれども、もちろん組合要求の本筋は賃上げであるから団体交渉で直接取上げないことはむしろ当然といえるし、交渉の資料としても正式に提供していないからといつて、組合活動に無関係な行為と断定する被告の判断は飛躍であるというほかない。さらにこれに関連して、前記の(六)に述べた井上業務部長の文書については、被告指摘のように井上が真野、小山両名に対する私憤から、たまたま組合側に、誇張的な資料を提供した疑がないわけではない(事実右文書の内容体裁は整然としたものではなく、思いつくまま書きなぐつたような判読も容易でないものであつて、一見して全部が信用に値するものとはいえない)。しかしそうだからといつて、被告認定の如く山崎要一が井上その他上司の一部に蟠つていた出向幹部に対する反感に個人的に同調し真野、小山両名の追放に加担し、人事に介入したと認めることは到底できない。右山崎としては、組合の活動の一環として一部幹部の非をとり上げる気持があつたとは認められるけれども、それ以上に幹部間の対立に関与するだけの利害があつたとは考えられない(いわゆる出向幹部といつても、参加人会社の幹部は社長以下ほとんど富士急行からの出向であつて、それも以前からのことであり、真野らが出向して来たことによつて、単に出向幹部なるが故に組合として反感をもつたと認めるに足りる証拠はない)。

なお、参加人会社は山崎要一に対する本件懲戒解雇の理由の一として、山崎が昭和四〇年五月一一日頃同会社沼津営業所食堂で開催された組合集会において会社従業員多数に対し前記真野、小山両名につき事実無根の文書を回覧して悪宣伝を行つた事実を挙げていることは当事者間に争いがないが、かかる事実のあつたことは、この点に関する前記乙第二号証の五および同号証によつて真正に成立したものと認められる乙第一号証の四の各記載は遽かに信用しがたく、他にこれを認めるに足る証拠がない。したがつて、山崎が参加人会社主張のような内容を持つ悪宣伝文書(乙第一号証の四記載の文書)を回覧した事実が存在するとはたやすく認められない。

以上の次第であるから、山崎の行なつた本件調査依頼書の郵送行為は、前認定のとおり組合活動の一環として実施に移されたものであつて、それが多少とも穏当を欠く点があるにせよその手段、態様、目的に徴し社会的妥当性を著しく逸脱したものではなく正当な組合活動の一に数えてよいものと考えられる。したがつて、被告が右所為を「真野らが出向して以来組合活動が多少窮屈になつたことについての不満と小山への反感にもとづき、かつ、折から真野、小山をこころよからずと思つていた井上と意を通じて両名の追放をねらつての行為」であるとし、「正当な組合活動の範囲を逸脱したものといわなければならない」と認定しているのは、事実の認定ひいては法律上の判断を誤つた違法があるといわねばならない。そして、使用者たる参加人会社は前記正当な組合活動である調査依頼書の郵送を捉えて就業規則第九一条第一五号に則り懲戒解雇をなしているのであるから、よしんば会社がそれを目して組合活動を逸脱した個人的誹謗と誤認していたとしても、なお労働組合法第七条第一号所定の労働者が「労働組合の正当な行為をしたことの故をもつてその労働者を解雇」した場合に該当すると考えられるし、また本件解雇が争議中実施された前記調査依頼書の郵送、同会社沼津営業所の貨物ホーム附近で行なわれた組合集会における言動を捉えて労働組合の執行委員長である山崎に対して行なわれていることなど前認定の一般的情況から使用者たる参加人会社の不当労働行為の「意図」が合理的に推測される余地が多分に存在すると考えられるから、被告委員会はこの点をも充分考慮して審査をすべきであつたといわねばならない。

なお、労働組合法二七条一一項が労働委員会の救済申立棄却命令に対しても労働組合又は労働者が行政事件訴訟法上の取消の訴を提起し得る旨を規定しており、右規定の置かれた趣旨からいつても、被告労働委員会は、原告申立にかかる事件が不当労働行為に該当すると認められる場合においては、特段の事由のない限り何らかの救済をする義務がありその救済を拒否する自由を有しないと考える。

第三、結論

以上のとおりであるから、被告が原告申立にかかる静労委昭和四〇年(不)第三号御殿場自動車事件につき昭和四一年一〇月三一日付でなした命令中、前記山崎に対する懲戒解雇が不当労働行為に当らないとして申立を棄却した部分は違法であるといわねばならない。しかしながら、右命令中その余の団体交渉拒否などに関する救済申立部分の適否については原告において争わずかつその点に関する被告の認定を覆すに足る証拠をも提出しないから、右部分については被告の命令が違法であるとは認められない。

よつて、被告のなした右申立棄却の命令全体の取消を求める原告の本訴請求は、そのうち右山崎要一の懲戒解雇に関する部分のみ正当であるから、その限度でこれを認容することとし、原告のその余の請求を棄却し、訴訟費用の負担につき、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法九二条、九三条一項を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 大島斐雄 吉川義春 小田原満知子)

(別紙)

昭和四〇年四月  日

調査依頼書

殿

富士急行よりの出向者真野助三郎、小山敬吾の両名はお互に結託社長不在を幸いに専務を圧迫会社経理を不正に処理して居る疑いがあることは誠に残念であります。

当労働組合に於いても目下調査中で資料全部が整うまでには至つておりませんが親会社である富士急行に於かれても、徹底的な調査せられ度く申入れる次第であります。

例1 真野、小山両名は腹身の者二、三と連日の如く飲み歩き翌日二日酔遅刻欠勤をしている。

2 得意先の招待と称して総務担当の真野と経理の小山の飲食代(毎月現金払)は推定二〇万~三〇万と思われる。

3 藤田、真野、小山対従業員の間には深い溝が出来上り業績向上は到底望み得ぬ情勢であります。

(沼津芙蓉タクシーと他社と比較すれば明らかである。)

全自運御殿場自動車支部

執行委員長 山崎要一<印>

命令書

(静岡地労委昭和四〇年(不)第三号 昭和四一年一〇月三一日命令)

申立人 全国自動車運輸労働組合御殿場自動車支部

被申立人 御殿場自動車株式会社

主文

本件申立を棄却する。

理由

第一認定した事実

1 被申立人御殿場自動車株式会社(以下会社という)は、資本金三、二四〇万円、従業員約二〇〇名、肩書地においてトラツク運送、観光バスおよびタクシーの三部門を営業する会社で沼津市、御殿場市等に営業所をもつている。

会社の株式の八〇パーセント以上は東京都にある富士急行株式会社(以下富士急という)が所有し、会社の幹部である取締役社長利根沢貞雄(以下社長という)、常務取締役真野助三郎(以下真野という)、専務取締役藤田昌平(以下藤田という)、監査役原田潔(以下原田という)および経理部長小山敬吾(以下小山という)はいずれも富士急より出向しており、労使とも、平素、富士急を親会社と称している。

2 申立人全国自動車運輸労働組合(以下全自運という)御殿場自動車支部(以下組合という)は、肩書地に事務所を有し、会社の従業員をもつて組織し、申立当時の組合員は約一六〇名、そのうち、タクシー部門の芙蓉タクシーの従業員約二五名で芙蓉タクシー分会(以下分会という)を組織している。

3 組合は、昭和四〇年三月九日、賃上一人平均五、〇〇〇円以上その他を内容とする春闘要求書を会社に提出した。

ついで、三月一二日、中央集合団交を申入れたが会社は、従来の慣行である企業内交渉を主張するなど、まず、団交方式をめぐつて労使の意見が対立するなかで四月二〇日第一波実力行使としてストライキが行なわれた。

4 この日に、組合はかねて真野、小山らが会社の経理を不正に処理しているとして、これらの者についての調査依頼書を組合執行委員長山崎要一(以下山崎という)名義をもつて、つぎの富士急幹部の自宅へ郵送した。

富士急取締役社長 堀内光雄(会社の取締役)

同常務取締役   利根沢貞雄(会社の取締役社長)

同〃       岡村幸光(会社の取締役)

同取締役     五十嵐節三(〃)

同〃       田中敬策(〃)

同常務取締役   矢沢頼忠

同専務取締役   石井健

これよりさき、分会所属組合員の間には、昭和三九年の夏頃から、小山らが顧客招待に名をかりてタクシーを私用に乗りまわし遊興飲食をするいわゆる“社用”浪費をしているとの疑いをいだくものがあり、また、真野および藤田が昭和三九年一〇月一日付で富士急から出向して以来、従来はゆるやかだつた職場集会等の会社施設の使用もいちいち許可制となり、また、従業員が事故をおこした際の処罰もきびしくなつたとして、真野に対する不満の声があつた。

5 たまたま、昭和三九年九月一七日午後一一時一五分頃、分会所属相川竜彦運転手(以下相川という)が沼津営業所操車係稲穂主任の指示で小山、長田(会社の経理係)、夏賀(会社の傍系会社沼津小型の主任)、遠藤(会社の貨物営業所所長)および会社の職員小宮等一同を熱海まで乗せて行くよう命ぜられ、同夜一二時半頃熱海の宝金荘旅館に到着したが、相川は小宮から乗車料金一、九二〇円を受取り、相川も同旅館に一行と同宿した。

翌朝、一同は同旅館を出発したが、相川は小山の命により車のメーターをたおさなかつた。一同は会社の一〇〇メートルほど手前で下車したが、そのとき、相川は夏賀から「会社へは電話するからだまつておれ」といわれた。相川が沼津営業所へ戻ると稲穂主任から「前夜来の稼ぎにしては少なすぎる」と問いただされた。相川は夏賀から口どめされていたが、どうせわかることと思い事実をありのまま述べた。両人の上記のような応酬を数名の分会所属の運転手がきいていたが、平素、営業所長や主任から稼ぎをふやすように督励されていることもあつて不満をもたらした。なかには吉原市の富士急管理部へ訴えようというものもあつたが、分会長佐野十三夫(以下佐野という)が「組合もあることだから、組合をとおして話すべきだ」といつてその場は一応ひきとつた。

なお、熱海の経費は会社が負担していない。

6 こえて同年一一月一五日、組合は、御殿場市川島の「にく友食堂」で山崎以下三役出席のもとに執行委員会を開き、会社幹部の経理上の不正について、三役ならびに執行委員がこれを調査することとなり、そのあとの処置は三役に一任された。斎藤実執行委員は、本社に勤務している関係から比較的調査し易いこともあつて、一二月中旬にはとにかく調査結果を山崎に報告している。こえて、翌四〇年三月二三日、組合は事務所で常任執行委員会を開き、佐野から調査結果について報告があつたが、調査はあまり進捗していなかつたので、さらに引き続いて確実な資料を集めることを協議決定した。四月上旬、組合副委員長勝又信貴(以下勝又という)は、当時の常務取締役業務部長井上源(以下井上という)から、公にしないようにといいふくめられて、小山、真野らについての資料(以下井上メモという)を受取つた。ついで、組合は四月一八日、常任執行委員会を開いて上記調査に関する最終的報告をなし、調査依頼書を親会社たる富士急の幹部宛に送付することに決し、四月二〇日に発送したことは上記のとおりである。

7 ひるがえつて、春闘のなかでは、団交方式をめぐる労使間の主張の対立で、四月二〇日の第一波実力行使以降数回のストライキが行なわれ、会社は、組合の集会や掲示につき施設管理権にもとづいて、しばしば警告を発し、組合はこれに抗議を申込むなどがあり、五月一一日には、組合は沼津営業所の貨物ホーム附近で山崎司会のもとに集会を開き、山崎が春闘について経過報告を行なつた。かくて、五月二〇日、賃上基本給一人平均一、五五〇円で妥結し、また、同日、組合は、春闘の紛争中に会社から警告されていた行動のなかに反省しなければならない点があつたことを認めて会社に対し反省の意を表明し、会社は、警告書の対象となつていた行動については一切責任を追及しないことを約して双方これを確認し、相互に覚書を交換した。

8 さて、上記調査依頼書に関して、四月二三日、社長は真野、小山を伊豆長岡の山田屋旅館に呼んで事情を聴取した。

同二六日、監査役原田(富士急の関連事業課長)は、社長から、調査依頼書記載の事実を究明するよう、また、特に、交際費等を重点的に調査するよう指示され、折柄、会社の決算期をひかえての会計監査のこともあつたので、会社に出張して、タクシーの作業日報、交際費等について調査し、また、真野と小山に対しても面接の上調査し説明を受けたが、さらに、六月四日、富士急関連事業課の山田主任を伴つて、再び来社し、調査結果をまとめ、これを社長に報告した。

会社は、調査依頼書については、富士急幹部宛の投書とみなし、会社独自の立場で調査したと主張し、したがつて、組合に対しては事情聴取も回答もしていない。

9 六月三日、藤田と会社の専務取締役杉山一正(以下杉山という)の両名は、組合事務所に山崎を訪ね、附近の車庫のなかで、調査依頼書と春闘との関係の有無を問いただし、同書記載の真野と小山に関する事項は事実無根であるとし、結局、両名を企業から追放しようとの意図によるものではないかと詰問し、かつ、藤田は後日のためにそのときの応酬をメモに取り、これを山崎にも見せてサインをとつた。

そこで、会社は六月一一日午前一〇時頃に山崎を出頭せしめ、藤田、杉山立合のもとに、山崎が会社幹部の非行を捏造し、これを外部宛に郵送し、また、五月一一日頃従業員多数に対し前記事実無根のことを事実の如く悪宣伝を行なつたことは、社内の秩序を乱し会社の信用を失墜させたものであるとの理由により就業規則第九一条第一五号を適用して、懲戒解雇する旨申渡した。

山崎は懲戒解雇は納得できないとして懲戒書の受領を拒んだので会社は解雇予告手当を静岡法務局沼津支局に供託し、懲戒書は内容証明で山崎の自宅に郵送した。

10 翌一二日、組合は、執行委員会を開き、山崎の解雇は組合に対する攻撃であるとし、あくまで解雇撤回を要求することを決定して、一四日を期して団交を行なうよう申入れたが、会社は、山崎要一名義の文書は受付けることができないとし、また、組合だけとの協議会で説明するなら一四日に会うが団交には応じない旨を回答した。

その後、労使間の一般の問題については山崎出席のもとに団交が行なわれている。

第二判断と法律上の根拠

1 調査依頼書によれば、組合は、真野、小山等が会社の経理を不正に処理している疑いがあるとし、その具体的な例として、

(イ) 真野、小山の両名は腹身(原文のまま)の者二、三と連日の如く飲み歩き、翌日二日酔遅刻欠勤している。

(ロ) 得意先の招待と称して総務担当の真野と経理の小山の飲食代(毎月現金払)は推定二〇万~三〇万と思われる。

(ハ) 藤田、真野、小山対従業員の間には深い溝が出来上り、業績向上は到底望み得ぬ情勢であります。

とあり、これらについて、組合は、顧客招待に名をかりたタクシーの濫用ならびに遊興飲食費の濫費であるとし、これらを無くすることにより組合員の賃金引上の原資に充てることができると考えて調査依頼書を郵送したのであつて、これは正当な組合活動であり、これを理由とする山崎の懲戒解雇は不当労働行為であると主張し、会社は、これらの行為は、虚偽の事実を捏造し真野、小山の追放を策した行為であつて正当な組合活動の範囲を逸脱したものであると主張するので以下これについて判断する。

2 (イ) 真野の会社経理上の不正について

真野は、昭和三九年一〇月一日付で出向してきたのであるが、山崎の証言によれば、九月一七日の熱海行以後「いわゆる“社用”はぱつたり無くなつた」のであるから調査依頼書にいう「真野の不正」は山崎みずから否定しているところである。

(ロ) 藤田について

調査依頼書の本文は、「真野、小山の不正追求」から書きだして、その例の三として「藤田、真野、小山対従業員の間には深い溝が出来上り云々」と、あたかも藤田も不正に一役加わつているかのように見られるが、組合は藤田についての不正には何らふれていない。

(ハ) 小山について

調査依頼の発端となつた小山らの熱海行の帰途、沼津まで小山らが空車にして走らせたことはうかがわれるが、旅館の飲食代、宿泊料は、後日、それぞれ個人名義で支払つたと相川が証言している。

つぎに、組合が昭和四〇年三月二三日常任執行委員会において、前年来、上記の経理不正に関する調査があまり進捗していないことを確認した際「勝又書記長の方から特に井上部長に資料の提供を頼むようにさせました」との山崎証言によつても、井上がかねてより真野、小山に対する反感を組合に洩らしていたことが推認され、また、組合では、山崎が「井上部長の文面も相当利用しています」と証言していることや、井上メモの文面「小山は毎夜の如く飲み歩いて居り」小山、真野の濫費額月間「二〇万~三〇万」を調査依頼書に引用していることなど、もつぱら井上メモに依存して調査依頼書を作成したことが推認される。

ところが井上メモ中に「興信所でも使用して一月間調査されたい」とあり、井上メモ自体確実性の乏しいものといわざるを得ない。

この点について、会社が、原田の調査によつて経理不正は事実無根であると主張するのに対し、組合は、原田の調査が一方的であつて信を措くに足りないと反駁しながら、二〇万~三〇万の不正等については山崎は「推定である」と主張するのみで、何らこれについて疎明していない。

3 調査依頼書と賃金引上との関係について

つぎに組合は、真野、小山らの不正を無くすることによつて組合員の賃金引上に資することが可能になると考えて調査依頼書を郵送したと主張するが、昭和四〇年三月九日の春闘における要求書には、真野、小山らの不正については何らふれていない。

そもそも、憲法が労働者の団結権ととも団体交渉権を保障しているのは、労働組合をして、団体交渉をとおして充分にその意図するところを主張させ、もつて労働者の経済的地位の向上に資せしめようとの趣旨にほかならない。しかるに、組合は、上記の不正追求を団体交渉の場にもちこもうとはせず、不確実な資料と推定によつて、しかも前年九月一七日以後“社用”は「ぱつたり無くなつた」と山崎委員長みずから認めながら、その後半年以上経た後の昭和四〇年四月二〇日に、調査依頼書を作成郵送したことは、到底組合の主張するような賃金引上を実現するためになしたものと見るによしなく、あまつさえ個人の氏名をあげて具体的な行為を指摘しながら、これを裏づける疎明をしていないのである。これを要するに、組合は、前年一〇月に真野らが出向して以来組合活動が多少窮屈になつたことについての不満と小山への反感にもとづき、かつ、折から真野、小山をこころよからずと思つていた井上と意を通じて両名の追放をねらつての行為と判断するのほかなく、したがつて、これは、正当な組合活動の範囲を逸脱したものといわなければならない。

4 その他救済請求について

つぎに、組合は、山崎を組合委員長であることを認め正当な組合活動を妨害し圧迫しないよう救済を求めているが、会社は、昭和四〇年六月中旬以後、特段の手続を経ることもなく、山崎が委員長として団交に出席することを拒んではいないと認められ、また、その後、会社が組合活動を妨害しているとの疎明もないので、このことについては当委員会は救済の必要を認めない。

また、会社が組合に対して誓約書を交付し、同趣旨のものを掲示することについての救済も当委員会はその必要を認めない。

以上の次第であるから、当委員会は、申立人の申立は理由のないものと認め、労働組合法第二七条および労働委員会規則第四三条により主文のとおり命令する。

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